街がイルミネーションに彩られ、どこからともなく鈴の音が聞こえてくる季節になりました。
皆さんは「サンタクロース」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるでしょうか?
ふくよかなお腹、真っ白で立派なヒゲ、そして低く響く優しげな笑い声。多くの人が、絵本や映画で見た「あの姿」を想像するはずです。しかし、もしあなたがその「理想のイメージ」に当てはまらなかったとしたら、サンタクロースになることはできないのでしょうか?
「自分はこの仕事に向いていないんじゃないか」
「理想のリーダー像とはかけ離れている」
「あの職種は、ああいうタイプの人が就くものだ」
就職活動や日々の仕事の中で、そんなふうに自分の可能性に蓋をしてしまった経験は誰にでもあるはずです。しかし、最新の科学研究が、そんな私たちの思い込みを覆す勇気ある事実を提示してくれました。
今回ご紹介するのは、アメリカのノーザンイリノイ大学などの研究チームが発表した、あるユニークな研究結果です。彼らはショッピングモールやイベントに登場する849人もの「プロのサンタクロース」たちを調査し、人が仕事に抱く「天職」の正体を解き明かしました。
そこには、これからの時代を生きる私たちが「仕事」と向き合うための、極めて重要なヒントが隠されていたのです。
研究チームを率いたベサニー・コックバーン教授らは、サンタクロースという職業を「天職」として捉え、情熱を持って取り組んでいるプロフェッショナルたちへのインタビューと調査を行いました。
一般的に、プロのサンタ業界には厳格な「正解」が存在します。それは「プロトタイプ(典型)」と呼ばれる、白人で、高齢で、太っていて、本物の白ヒゲを生やしている男性です。実際、アメリカには「本物のヒゲ」を持つサンタのための組合まで存在し、そのイメージを維持するためのトレーニングさえ行われています。
しかし、今回の調査で明らかになったのは、サンタクロースたちは決して一様ではないという事実でした。研究チームは、プロのサンタたちを、その特徴から大きく3つのタイプに分類しました。
生まれつきサンタのような容姿を持ち、理想像に完璧に合致する人々。
サンタらしくはあるが、ヒゲが付け髭だったり、痩せていたりと、一部の特徴が理想と異なる人々。
女性、有色人種、障害を持つ人など、従来のサンタ像からは大きくかけ離れている人々。
もし、「外見が仕事の適性を決める」のであれば、最も成功し、やりがいを感じているのは間違いなくの「プロトタイプ・サンタ」たちでしょう。彼らは努力せずとも「サンタそのもの」として受け入れられるからです。
しかし、研究が明らかにしたのは、驚くべき逆説でした。
「サンタらしくない」人々こそが、むしろ誰よりも強くその役割に没頭し、深い情熱と使命感を持って仕事をしていたのです。
仕事において、自分が「理想像」と違うことに悩む人は多いでしょう。しかし、その「ズレ」こそが、独自の工夫や創造性を生み出す源泉になることがあります。
研究に登場する「セミ・プロトタイプ・サンタ」たちのエピソードは、まさにその好例です。
あるサンタは、非常にスリムな体型をしていました。伝統的なサンタ像からすれば、それは欠点です。しかし彼は、子供たちにこう語ることでその欠点を魅力に変えました。
「私は『健康サンタ』なんだよ。お医者さんが今のままがいいって言うんだ」。
また、聴覚障害があり人工内耳をつけている別のサンタは、子供たちに「これは働き者のエルフたちと話すための特別なマイクなんだ」と説明しました。
彼らは、自分に足りないもの(太ったお腹や聴力)を隠すのではなく、それを自分だけの「物語」として再構築しました。研究チームはこれを「エピソード型のコーリングの実践」と呼んでいます。
私たちも同様に、「自分は内向的だから営業に向いていない」と嘆く代わりに、「聞き上手な営業」という物語を作ることができるかもしれません。「理系ではないからITは無理だ」と諦めるのではなく、「文系の視点で技術を翻訳できるエンジニア」という独自のポジションを築けるかもしれません。
自分と理想像とのギャップは、決して欠陥ではありません。それは、あなただけのオリジナリティを発揮するための「余白」なのです。
さらに興味深いのは、女性や有色人種など、従来のイメージから最も遠い「非プロトタイプ・サンタ」たちの姿です。
彼らはしばしば、雇い主や社会から「サンタらしくない」という理由で拒絶される経験をしています。ある黒人のサンタは、店舗から「黒人のサンタを受け入れる準備ができていない」と言われたこともありました。
それでも彼らがサンタの赤い服を脱がないのはなぜでしょうか?
それは、彼らがこの仕事に「個人的・道徳的・社会的な強い意味」を見出しているからです。ある女性サンタは、代役として初めてサンタの服を着た時、子供たちの喜ぶ顔を見て、そこに自身の信仰にも通じる「愛と希望と喜び」を感じたと語っています。
彼女にとってサンタであることは、単なるパフォーマンスやアルバイトではなく、「人々が愛されていることを思い出させる」という崇高な使命そのものになったのです。
コックバーン教授はこう述べています。「彼らは外見や行動などの重要な点でサンタらしくないにもかかわらず、完璧に役柄を体現している人々よりもさらにその役割に献身的でした」。
彼らは、外見というアドバンテージがない分、子供たちとどう向き合うか、どうやって魔法のような時間を届けるかという「本質」に、より一層のエネルギーを注いでいたのです。
これは、私たちのキャリア観に強烈な問いを投げかけます。
私たちは普段、仕事を「何をするか」や「どう見えるか」で判断しがちです。しかし、困難を乗り越え、長く情熱を燃やし続けられるかどうかを決めるのは、自分自身の内側にある「なぜやるのか」なのです。
さらに興味深いのは、女性や有色人種など、従来のイメージから最も遠い「非プロトタイプ・サンタ」たちの姿です。
若い世代の方々の中には、自分の実力や実績を認められず、「自分は偽物だ」「いつか化けの皮が剥がれる」と不安と悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません(そのような心理状態は「詐欺師症候群」と呼ばれています)。
実は、ヒゲが偽物である「セミ・プロトタイプ・サンタ」たちもまた、自分は本物ではないという「偽もの感」に悩むことがありました。
しかし、彼らはその不安を行動で乗り越えました。外見を変えることができなくても、振る舞いや心構えにおいて「ほんもの以上にサンタらしくある」よう努力したのです。
例えば、プライベートの時間であっても、子供に見られているかもしれないと意識して親切に振る舞う。クリスマスシーズン以外でも、サンタとしての精神(優しさや忍耐強さ)を持って生活する。
そうした日々の積み重ねが、やがて彼らを「本物のプロフェッショナル」へと変えていきました。
「形から入る」のではなく、「心から入る」。
自分はまだその役職や役割にふさわしくないと感じていても、その仕事が持つ意義を信じ、誠実に向き合い続けることで、私たちはいつか自分自身のなりたい姿と実像を一致させることができるのです。
「天職」という言葉を聞くと、多くの人は「運命的に出会う、自分にぴったりの仕事」を想像するかもしれません。まるで、シンデレラのガラスの靴のように、自分の足に吸い付くようにフィットする場所がどこかにあるはずだと。
しかし、849人のサンタクロースたちが教えてくれたのは、全く別の真実です。
天職とは、最初から完璧にフィットするものではありません。
「外見が違う」「性格が違う」「経歴が違う」といった違和感や障壁がありながらも、それらを情熱と工夫で乗り越え、自分自身をその役割に合わせていくプロセスそのものが、仕事を天職へと変えていくのです。
研究論文の著者の一人であるオレゴン州立大学のボルバラ・チラグ教授はこう語っています。
「サンタ役に対する期待は心理的ストレスのように見えるかもしれませんが、それは乗り越えられるものです」。
そして、これはサンタに限った話ではありません。教師であれ、看護師であれ、エンジニアであれ、あるいは経営者であれ、社会的な「あるべき姿」という目標は存在します。しかし、それに縛られる必要はないのです。
もしあなたが、やりたいことに対して「自分はそのキャラじゃない」「向いていない」と尻込みしているなら、どうかこの「枠からはみ出したサンタたち」のことを思い出してください。
彼らは、太っていなくても、白ヒゲがなくても、男性でなくても、世界最高のサンタクロースになれることを証明しました。
重要なのは、あなたがその仕事を通じて誰に何を届けたいかという「想い」であり、その想いを実現するためにどれだけ工夫を凝らせるかという「意志」です。
コックバーン教授は、かつて自身を「クリスマス嫌い」と称していましたが、サンタたちの情熱に触れ、考えを一変させました。
「私たちは、自分が情熱を持っていて、得意なことを追求すべきです。自分自身を制限してはいけません」。
あなたのキャリアは、誰かが決めた「理想像」をなぞるためのものではありません。
あなた自身の価値観、あなただけの物語で、その仕事を彩るためにあるのです。
さあ、恐れずに、あなただけの「赤い服」に袖を通してみてください。
最初は少しサイズが合わないかもしれません。周りから「似合わない」と言われるかもしれません。
けれど、あなたがその役割に愛と情熱を注ぎ続けたとき、それは間違いなく、あなたにしか務まらない「天職」になっているはずです。
外見や固定観念よりも、あなたの「気合」と「心」を信じて。
メリー・クリスマス。そして、素晴らしい人生の旅を。
[1] Academy of Management Journal 「OWho’s Behind the Red Suit? Exploring Role Prototypicality within Calling Enactment among Professional Santas」
https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/amj.2023.1161?journalCode=amj
[1] NIU Newsroom 「Professional Santas Embody ‘Calling,’ Feel Chosen for Role」
https://newsroom.niu.edu/professional-santas-embody-calling-feel-chosen-for-role/#gsc.tab=0
[2] Newsweek 「The Three Types of Santa Claus Revealed」
https://www.newsweek.com/three-types-professional-santa-claus-revealed-father-christmas-11174644
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